『田園の詩』NO.42 「春を待つ心」 (1996.3.26)


 以前、教育関係だったか、または宗教関係だったかは忘れましたが、講演会で次の
ような話を聞きました。

 小学校の理科の時間のことです。先生が「氷が解けたら何になる?」と質問しました。
そしたら、「春になる」と答えた子供がいたそうです。「水」と答えるのが正解には違い
ありません。しかし、長い間凍りついていた氷がやっと解け始めた時、季節が「春」に
なるというのも確かにその通りです。このような子供のやわらかな感性を大切にしたい。
「水」の答えが百点なのは当然だが、「春」の答えにも百点をやりたい…。

 私も「春になる」というユニークな答えは本当に素晴らしいと感心しますが、南国育ち
の人(子供でも大人でも)が、どんなに感性豊かであっても、こんな発想はできないと
思います。

 当地、国東地方でも、冬場は毎朝のように氷が張りますが、昼前には解けてしまいま
す。ですから、「氷は解けて水になる」毎日この繰り返しです。氷が解けると春になると
いう発想は、北国の人だからこそ感じる思いでしょう。

 北国の春は、根雪や湖の氷が解けると、ページをめくるように一度にやって来ると聞
いています。ラジオからこんな歌詞の歌が流れていました。『北に住む人は幸せ/春を
迎える喜びを/誰より強く/感じることが/できるから』。冬が厳しいだけに、春を待つ
気持の強さをうかがい知ることができます。


      
        ボケの花に少しだけ解けずに残った雪。  (07.1)

 南国の春は、三寒四温の言葉通り行きつ戻りつしながら、いつの間にやら春になると
いう具合です。冬から春への境となるような事象はありません。ウグイスは二月の初め
より鳴いていますし、梅も三月初めには満開となった所もあります。しかし、そのウグ
イスや梅がかわいそうな寒風が吹いたりもします。

 土筆は? スミレは? 桃は? 桜は?…と、ひとつひとつ春の事象を見逃さぬよう
に確認して行かねばなりません。なにせ、二ヶ月掛けてやっと春になるのですから。
                              (住職・筆工)

                【田園の詩NO.】 【トップページ】